行雲流水 花に嵐
「何だよ、火付け役って」

 じろりと睨む宗十郎を、要蔵はにやにやと見る。

「馴染みの女子が攫われたんだ。上月の旦那だって、熱くなりやしょう」

 怒りに火が付いたほうが戦いやすい、ということのようだが、宗十郎は首を傾げただけだった。

「駄目よ。この朴念仁は、おすずちゃんを下半身でしか見てないんだから」

 鼻息荒く言い、片桐はどすんと腰を下ろした。

「……だが、確かにおすずが一番危ない位置にいるだろうな」

 片桐に言いたいことを言われ、さらに散々ぶちのめされた宗十郎が、ぽつりと呟いた。
 おすずを救い出すことは依頼ではないが、己の頼みを聞いてドジを踏んだことは、まず間違いない。
 己のせいで捕まったのであれば、やはり己がおすずを助け出すべきだろう。

「だが、生きてるかなぁ」

 竹次たちのことを調べているのがバレたのだとしたら、早々に殺されてもおかしくない。
 折角助けに行っても、すでに殺されていたら無駄骨だ。

「とりあえずは大丈夫じゃない?」

 膳の上の田楽を齧りながら、片桐が言った。

「殺すなら、弥勒屋で殺ってるわよ。わざわざ連れ去ったってことは、当面は殺さないってことでしょ」

「なるほどな。確かに」

 おすずは弥勒屋の時点で、散々痛めつけられていたという。
 竹次のような荒くれ者にぶちのめされれば、女子など歩くのもままならないだろう。
 そのような状態で、なお連れ去ったということは、殺すつもりはないと見ていい。

「だけど、ずっと生かしておくとも限らないわよ」

「わかってるよ。おすずは助け出す」

 宗十郎の言葉に、片桐は満足そうに頷いた。
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