行雲流水 花に嵐
「旦那も女子に興味があったんだな」

 竹次もにやにやしながら言う。
 片桐はじろりと竹次に目をやり、つい、と身体を寄せると、その顎を掴んだ。

「別にあんたでもいいのよぉ?」

「……っ! だっ旦那っ! じょ、冗談だろ」

 竹次が慌てて尻で後ずさる。
 手下の危機を悟ってか、勝次が二人の間に割って入った。

「旦那はどんな娘がお好みだい?」

「そうねぇ……」

 竹次から手を離し、片桐は首を傾げた。
 さて、おすずはどんな娘だったか。

---あら、そういや宗ちゃんから話を聞くだけで、あたし、おすずちゃんのこと知らないわ---

 ここでおすずを指名すれば、存在も確認できるし何があったのか詳細も聞けよう。
 宗十郎をダシに、新たな指令を与えることだって出来たのだが。

---ま、仕方ないか。そうそう上手いこと行くわけないものね---

 とっとと諦め、片桐は適当に希望を言った。

「ま、綺麗に越したことはないわね。あたし、醜いものは嫌いだから」

 そして、ふと思いついて付け足してみる。

「あと、まぁ……。ちょっと危ないことも大丈夫な娘なら嬉しいわね」

 にやりと笑う。
 ここは客をあこぎな手で丸裸にするが、それでも大きく問題にならないのは、そういう目に遭っても大っぴらに出来ないような接待を受けたからではないか。
 客に世間に言えないような危ないもてなしをし、その後金を毟り取る。

 法外な金を要求されても、客は後ろめたさから訴え出ることも出来ないし、人に相談することも出来ない。
 大人しく金を払うしかないわけだ。

 片桐の言葉に、勝次が意味ありげに口角を上げた。

「……旦那ぁ。旦那もそういう趣味かい」

「あたしがまともに見えるのかい」

「違いねぇ。けど残念ながら、ここじゃそんなことぁ出来ねぇ」

 おや? と片桐は少し戸惑った。
 当てが外れただろうか。
 が、勝次は一旦廊下に向けていた身体を戻すと、片桐の傍に寄り、小声で耳打ちした。

「ま、旦那にゃ世話になるだろうから、とりあえず、そうさな。件の牢人を斬ってくれたら、特別な座敷にお招きするぜ」

 にやにやと言うわりに、声は潜めている。
 なるほどね、と胸の内で思い、片桐は話を打ち切った。
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