行雲流水 花に嵐
「片桐、酒買ってきてくれ」

「阿呆なの、宗ちゃん」

 当然のように拒否し、しかも片桐は杯に入った最後の酒を、ぐいっと飲み干した。

「貴様」

「何よ。さっきも言ったけど、あたしゃちゃんと働いてんの。ちょっとした情報を掴んで急いで来たから喉が渇いてんのよ」

 悪びれる風もなく、片桐は空になった杯を投げ捨てる。
 宗十郎は息をついた。
 こんなことにいちいち腹を立てていては、この変態とは付き合ってられないのだ。

「それで? 何がわかったって?」

 宗十郎が水を向けると、片桐は、憶測だけど、と前置きして語りだした。

「多分あそに娘はいないんじゃないかしら。いえ、いることはいるんだけど、あそこにいるのはちゃんとした買った娘だわ。しかもねぇ、結構女郎にゃ人気なのよね」

「どういうこった」

「あたしが見世に顔出すたびにね、女郎が増えてんの。しかも、全然嫌々って感じじゃないのよね。噂に聞く非道な扱いなんて微塵もなかった。おかしいと思って、女郎に聞いてみたんだけどね」

「何だ、お前も女に興味があるのか」

「ちょっと! 宗ちゃんまで何でそういうこと言うのよ。全く皆、あたしをどういう目で見てるのかしら」

 ばんばんと片桐が畳を叩く。
 何で普通に見られると思えるんだろう、と思ったが、話が脱線しそうなので、宗十郎は黙っていた。

「で、その女郎に攫われて来たのか聞いたのか」

「馬鹿ね、そんな怖いこと言うわけないでしょ。変にビビらせてあそこの男に吹き込まれたら、一発であたしが怪しいってわかるじゃない」

「そうだな」

「世間話よ。あんたもこんな苦界で大変ねってさ。若い女子なんて、あたしにかかりゃ一発で落ちるもの」

 ふふん、と笑う。
 確かに片桐は、役者のような美男子だ。
 喋りさえしなければ、の話だが。

 そのような男に優しい言葉をかけられれば、苦しい状況の女子など、ころっといくだろう。
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