行雲流水 花に嵐
「お前は口も上手いからなぁ」

 宗十郎には使えない手管だ。
 女子と楽しく話をするなど考えられない。
 話題豊富な人間ではないのだ。

「そうねぇ。宗ちゃんじゃ、こうはいかないでしょうね。何よりあんたは、下半身でしか女子を見ないもの」

「男なんて、そんなもんだ」

 最早言い返す気もない。
 素っ気なく言って、先を促す。

「でね、そうそう。大変な目に遭ってるんだろうと思って、その体(てい)で聞いてみたのに、その子ったらぽかんとしてさ。裏通りの見世はヤバいからって聞いたんだけど、ここは全然だって。むしろ表の見世より待遇がいいって喜んでるのよ」

「どういうことだよ。攫って来た娘をあそこでいたぶってるんじゃねぇのか」

「どうも、そんな感じはないのよねぇ。内部もよく見てみたんだけどさ、大人数を監禁しておくような部屋はないのよ。無理やり働かされてるような暗い雰囲気の子もいないしさ」

「……あそこは正規の廓ってか?」

 思い切り顔をしかめて、宗十郎は顎を撫でた。
 この辺りの噂と随分違う。
 噂なので、多少の脚色はあるかもしれないが。

「それにしたって、元締めの情報が丸っきり間違ってるとも思えねぇぜ」

 要蔵が、事前に亀屋を調べているのだ。
 さほど詳しくはわからないが、そんな素晴らしいことなど微塵もなかった。
 現に要蔵に泣きついて来た上月家は、実際に酷い目に遭っているのだ。

「もちろんよ」

 片桐も表情を引き締めた。

「何となく、あそこで働く女郎にとってだけだと思うのよ、待遇がいいってのは。考えてもみてよ。勧めた酒に薬を混ぜて眠らせるのなら、女郎にとっては楽ちんよ。実際に相手にしないでお金が貰えるんだからね。しかもそれを廓のあるじ自ら指示されるとなると、別にお勤めをさぼったわけじゃないじゃない。見世にバレて折檻される恐れもないわけよ。お客にとっては不幸だけど、女郎にとっては幸せってわけ」
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