行雲流水 花に嵐
「宗十郎! 勝手に稽古を見るんじゃない!」

 宗十郎の腕を恐れた仙太郎が、道場から駆け出してきて宗十郎を追い払うようになるのに、そう時はかからなかった。

 しかしいくら仙太郎が妨害したところで、見る者が見ればわかってしまうものだ。
 仙太郎の師である道場主が、宗十郎に目をかけるようになった。

 当然仙太郎は面白くない。
 道場に宗十郎を伴うのを止め、倉に閉じ込めたりした。

 なまじ仙太郎より才があったため、受ける苛めも半端なかったわけだ。
 倉に閉じ込めるだけならまだしも、当然飯も与えない。

 二日もそのまま放置されたこともある。
 やっと出されたと思ったら、休む間もなく雑用にこき使う。
 二日間、仙太郎の世話をさぼったと、正妻に折檻される。

 家の下男下女も、正妻を恐れてか、皆見て見ぬふりをした。
 小さな宗十郎が正妻に棒で酷く叩かれ血塗れになっても、仙太郎に雪に埋められても無視を通したほどだ。
 宗十郎を引き取った父親でさえ、仙太郎が健康になるにつれて、宗十郎を持て余した。
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