行雲流水 花に嵐
「なるほどな。だから女郎が見世を悪く言わねぇってことか。どころか、どんどん客を取ろうとするわな。てめぇの身を使うわけじゃねぇから、何人取ろうと辛くねぇし。見世もカモをどんどん引き込んだほうがいいだろうから、女郎にはそれなりの金を落とすだろうしな」

「そうなのよ。通常廓の稼ぎなんざ、廓に吸い上げられて年季が明けるなんて夢のまた夢よ。それが、あそこは自分の稼ぎをそれなりに還元してくれる。女郎にとってはこの上なく優しい廓よね」

「考えたもんだな……」

 悪名高い廓のわりに、脱走騒ぎがないのは不思議だった。
 表の廓でさえ、たまにだが脱走するものがいる。

 正規に女衒を介して売られてきた娘でさえ、色町に染まりきる前は、隙あらば逃げ出したいものなのだ。
 実際は逃げ出して親元に帰ったところで、親は金を貰っているのだから快く迎え入れて貰えるはずもないのだが。

「それでも、攫われてきた娘はそんなこと理解する前に、逃げ出そうとするだろう?」

 攫われたのなら親も探すだろうし、帰ってくれば喜ぶだろう。

「そうなの。だから、攫った娘たは、あそこにはいないっていう結論に達したわけ」

 ようやく片桐が最初に言ったことが理解できた。

「ま、攫った子の中には状況を読むのが速い子もいるだろうから、そういう子はあそこで女郎やってるかもしれないけどね。楽してお金が貰えることがわかったら、攫われたって帰ろうと思わないかもよ。帰っても貧しい暮らしだろうしね」

「そういうことかい。なるほどな」

 何となく亀屋の実態が掴めたが、これでははっきり言って手詰まりである。
 おすずの行方はもちろん、太一の行方もわからない。

「……面倒くせぇなぁ」

 ぼりぼりと後頭部を掻く宗十郎に、片桐は少し目を細めた。

「普通に考えたら、可愛い甥っ子と可愛い恋人のためなんだけどねぇ」
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