行雲流水 花に嵐
「別に太一は可愛くねぇし、おすずは恋人なわけじゃねぇ」

「ま、あんたからしたらそうかもね。二人とも他人でしょ」

 太一は別に、宗十郎にめちゃくちゃ懐いていたわけではない。
 そもそも兄もその嫁も、宗十郎などに子は近づけなかった。

 宗十郎自身も子供好きではないし、どちらかというと嫌いなほうだ。
 こちらから太一に構うこともなかったので、感情面でもその辺の子供と変わらない。

「けど太一は金蔓、おすずはまぁ、情報提供の恩があるしな」

 大した恩じゃねぇけどな、と呟き、宗十郎は立ち上がった。

「ふふ、あんたのそういう冷めたところ、好きよ」

 妖艶な笑みを浮かべ、片桐も立ち上がる。
 宗十郎がおすずを省みないことを叱ったりするものの、片桐だって根本は似たようなものだ。

 ただ戦いを誘発してくれるから庇うだけ。
 戦闘以外はどうでもいい。
 おすず自体には興味などないのだ。

「けど、どう動くのよ。つかあんた、人の話聞いてた? 顔も隠さずうろうろしないで頂戴。顔隠したって、その暗い雰囲気は隠しようがないんだし、あんたが下手に動き回っちゃこっちに迷惑なんだけど」

 外に出ようとした宗十郎に、はた、と我に返った片桐が、彼の袖を掴んだ。

「あんた、目え付けられてるんだから、あんまりうろうろしないで頂戴! でないと早々にあたしが始末しないといけなくなるわ」

「は?」

「あたしねぇ、あんたの殺しを依頼されてんのよ」

「ほぉ」

 にやりと笑い、宗十郎は左手で刀を掴んで身体を反転させた。
 さっと片桐が飛び退り、宗十郎から距離を取る。
 といっても狭い長屋の土間なので、手が届く範囲でしか離れられないが。

「まぁ想定内でしょ。あたしは亀屋に入り込んでるんだから、あっちの人間よ」

「違いねぇ」

 宗十郎の右手が、左手で掴んだ刀の柄にかかる。
 同じく片桐も、腰を落として己の刀を掴んだ。
 双方の身体から、剣気が放たれる。
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