行雲流水 花に嵐
「正規見世なら、わしだって放っておくよ。けど相手が悪い。実際上月の若旦那が通った回数とその金額は割に合わねぇよ。しかも案の定、半分以上は寝てただけだっつぅしな」

「寝てたって同じだ」

「あそこのは、そういう粋な理由じゃねぇ。薬で眠らされるんだって。帰りたくても泊まりにならぁな。そして金額が跳ね上がる。あそこの常套手段だよ。寝てる間に飲みもしねぇ酒代も加算されるし、それがまた馬鹿高ぇ」

「寝てただけだっても証拠がねぇわな」

「そういうこった。その上若旦那が入れ上げたのは、亀屋の花形遊女・浮草。一番の稼ぎ頭を孕ましたってんで、その落とし前も請求されてる。それとは別に、浮草の身請け代」

 通常遊女が孕んだところで男にお咎めはないはずだが、亀屋は何か口実を見つけては客から金をせびるのだろう。
 しかも今回は亀屋での太夫が相手だ。

 亀屋のような見世では他に代わるような女子もいないだろう。
 その分賠償金も高くなる。

「身請けは? 孕んだから無理やりか?」

「違うんだな。若旦那が浮草を手放さねぇのよ」

「……懲りてねぇのか」

 ほとほと呆れたように、宗十郎はため息をついた。

「亀屋としては、美味しい客ではあるが危険でもある。金を返さんまま、浮草と情死でもされかねねぇしな。だからガキを取ったんだろ」

「何か協力したくなくなってきた」

「金のためだぜ、旦那」

 つくづく上月の家に何の情もなくて良かったと思う。
 身内だという気が僅かでもあったら、恥ずかしいことこの上ない。

「まぁ、おすずと太一と、親分のためだな」

「そうさ。あんな見世をのさばらせておいちゃ、色町を仕切る要蔵一家の顔が立たねぇ」

 ようやく、要蔵が親分らしく目を光らせた。
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