行雲流水 花に嵐
 宗十郎が要蔵の離れに身を寄せた同夜、片桐は亀屋を訪れていた。
 宗十郎を斬らないと、攫った女子らがいるであろう『特別な座敷』に行けないかも、ということで、竹次に目を付けたのだ。

 おすずが攫われてから、まだそう経ってない。
 前々からかなり執着していたようなので、竹次は今もおすずのところに行っていると思ったのだ。

「こりゃ旦那。遊んで行きなさるんで?」

 最早見知った幇間が、すぐに部屋に案内する。

「竹ちゃんは?」

 いつもの奥座敷に通され、片桐は小者を振り返った。
 大体片桐が顔を出すと、竹次が飛んでくるのだ。

「竹兄は、今日は野暮用で先程出て行きましたんで……」

 にやりと下卑た笑いを浮かべ、小者が言った。
 きらりと片桐の目が光る。

「ちょいと。その様子じゃ別口でお楽しみなんじゃないかえ? あたしに黙ってそんなところにしけ込むたぁ、いい度胸してるじゃないのさ」

「い、いやっその……」

「いつ出て行ったんだいっ」

「ついさっきで……」

「どこ行ったんだよ! 言えないならすぐに連れて帰っておいで!」

 ぴっと手を払うと、小者は慌てたように廊下に走り出て行った。

---さて、どうしようかしらね---

 小者が見世から出たぐらいで、片桐は窓に身を寄せた。
 だがそう都合よく窓が通りに面しているわけでもなく、この部屋からは姿は見えなかった。

---あの様子じゃ、竹次の行き先は結構下っ端でも知ってるってことよね。てことは、そう大事なところでもないのかしら? 攫った女たちを監禁してるところじゃないかもね---

 本当に単なる野暮用だったのだろうか、と考えていると、廊下を重い足音が近づいて来た。
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