行雲流水 花に嵐
そんなある日、道場で見かけることのなくなった宗十郎を、しきりに気にする師に不安を募らせた仙太郎は、宗十郎に父親の前での勝負を申し込んだ。
 宗十郎のことを知る周りの者の気が皆宗十郎へ向かえば、父親とてそちらに流れるのではないか。

 一旦は跡継ぎに、と引き取った弟である。
 いつまた何時、そう考えるかわからない。
 そんな不安があったのだろう。

 また、宗十郎はいくら師の目に留まったとはいえ、基本からきちんと習ったことなどない。
 見様見真似の、我流なのだ。
 しかも、ちゃんとした木刀や竹刀を使ったわけでもない、単なる棒切れや箒を振っていただけのこと。
 幼い頃よりしっかりと基礎から習った己より、根本的に勝てるわけはないのだ。

 父親の前で徹底的に打ちのめして見せれば、今後周りに何を言われようと、己のほうが実力があるとわかっているため、揺らぐことはないだろう。
 何せ自分は目録の腕だ。
 腕の一本も折ってやるのも、面白いかもしれない。

「さぁ宗十郎。お主も剣を齧ったのであれば、一度くらい正式に立ち合いをしてみたいだろう。ちゃんと父上に検分役もお願いしているし、母上もご覧だ。遠慮はいらんぞ、思う存分打ち込んで来るがいい」

 馬鹿にしたように、仙太郎が宗十郎に木刀を投げ、構えた。
 庭に面した縁側には、父と正妻の姿もある。

 父はともかく、正妻は、ことのほか嬉しそうだ。
 仙太郎と思考が全く同じなのだから、正妻も息子の地位を盤石にできるのであれば、妾の子など試合にかこつけて始末したいところなのだろう。
 己の息子の腕を露程も疑っていないので、今日こそ憎っくき存在を蹴落とせると、目を輝かせている。
< 6 / 170 >

この作品をシェア

pagetop