行雲流水 花に嵐
 不意の来訪に驚いた父は、随分老けて見えた。
 己ももういい歳にまで成長したのだから、親が老けていても当然なのだが、おそらくそれだけではない。
 今回の仙太郎のことが、大きく影響しているのが見て取れた。

「……久しぶりだな。元気そうで何よりだ」

「お久し振りにございます」

 軽く頭を下げ、宗十郎は他人行儀に挨拶した。

「あまりゆっくりもしたくありませぬ故、単刀直入にお尋ね申す。兄・仙太郎の此度の不始末、上月の家としては、どう動くおつもりか」

 いきなり本題に入った宗十郎に、父があからさまに動揺した。

「な、何故お前がそれを……」

「それがし、現在色町の親分に厄介になっております。聞くところによると、父上が自ら親分に泣きついたとか」

「い、色町の親分……?」

 気付いたように、父は、はっと顔を上げた。

「お、お前があの件の始末をつけてくれるのか」

 複雑な表情で言った後、少し安心したような顔になる。
 まさか音沙汰のなかった宗十郎と、思わぬところで繋がるとは考えもしなかったろうが、こういう話は全くの他人に漏れるよりは身内で留めたほうがいい。

「う、うむ……。お前が家のために動いてくれるのであれば、それに越したことはない」

 頷く父に、宗十郎は変わらぬ冷たい目を投げた。

「誤解なさらず。家のためなどではありませぬ。これはあくまで仕事故」

 事務的に言い、ちらりと部屋の中を見る。
 母屋は昔に比べて少々痛んだようにも思ったが、この離れは小さいながらも立派だ。

 上月家の懐具合から見ると、若干不釣り合いにも思える。
 母屋に比べて隠居所である離れが立派というのもおかしい。
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