行雲流水 花に嵐
---あの女の見栄が詰まった離れだな---

 うんざりと目を戻し、宗十郎は居心地悪そうにしている父を見た。

「仙太郎の作った借金、父上が用立てているそうですね。しかしそれはとりあえず……まぁ仙太郎を廓から解放するだけの金でしょう。遊興費に遊女の揚げ代、さらに身請け代が残っているでしょう。太一の身代金も入ってるから、まぁ莫大だ」

「ど、どこまで知っているのだ」

 青くなって、父が言う。

「仕事だと言ったでしょう。でなければ、こんなところに来ませんよ。それがしの知り合いも若干絡んでおります故、太一救出には手を貸さざるを得ません。父上が親分に渡した投げ文も拝見しました。そのような大金、とても用意できないでしょう」

 うう、と父は頭を抱えた。
 小さく、どうすればいいのだ、と唸る。

「まぁ……出来得る限りの金策はしてください。それがしも無償で働く気はありませんので。ところで当の仙太郎は、どうしているのです」

「廓から連れ戻してから、まるで抜け殻だ。息子を取られたこともあるが、入れ込んだ遊女のことが忘れられんという」

 は、と宗十郎は息を吐いた。

「息子と遊女が同列ですか。呆れた当主ですな」

「仙太郎は、今まで遊ばなかった分、どっぷり嵌ってしまったのだ。お梅も大人しいばかりで面白味がないらしく、刺激の強い色町にすっかり魅せられてしまった」
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