行雲流水 花に嵐
「遊ばなかっただけが原因ではありますまい。そうなる下地は十二分にありましたよ。母親共々虚栄心の強いお人でしたからな。まぁ馬鹿当主のことはどうでもいいです。下手に動かれるよりも、屋敷に籠っておいて貰ったほうが、こちらも都合がいい」

 ところで、と宗十郎は庭先に目をやった。

「お小夜殿は田川様の茶会とか。孫が攫われてるってのに、優雅なものですな」

「もちろん太一がいなくなったときは半狂乱だった。だがこのようなこと、下手に漏らすわけにはいかぬ。田川様との付き合いは大事だし、何食わぬ顔で集まりに参加するしかないだろう」

 田川家は上月家の上役に当たる。
 取り入っておいて損はない。
 不出来な仙太郎を少しでも引き上げて貰うためには、常にご機嫌を取っておくべき相手だ。

「なるほどね」

 当人の様子を見たほうがいいような気もしたが、とにかく会いたくない。
 その辺のことは文吉にでも探らせようと、宗十郎は腰を上げた。

「とりあえず、下手に動かないでくださいよ」

 念を押すと、父は不安そうな目を向けた。

「だが、どうするというのだ。あ、あまり大事にはしたくないのだぞ」

「わかってますよ。俺もとっ捕まりたくはないんでね」

 長く喋っていることに加え、苛々していたこともあり、思わず宗十郎の物言いが乱暴になる。
 びく、と父の身体が震えた。

「ちょいちょい話を聞かせて貰うかもしれません。その際には、代わりの小者を寄越します。何かあったら三条にある料理屋『野菊』に繋いでください。くれぐれも、自分だけで動かれませんよう」

 言い捨て、宗十郎は縁側から庭に降りた。
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