行雲流水 花に嵐
 宗十郎は木刀を拾った。
 が、特に構えもせず、だらりと下げたままだ。
 ろくに食わせず働かせ詰めなので、ひょろりとした身体に、いかにも木刀が重たげに見えた。

 仙太郎は、ふ、と息をつくと、いきなり間合いを詰めた。
 構えも知らない素人には、間合いを読むなどできない。
 故に、斬撃の間合いを気にする必要もない。

 無造作に一足一刀の間境を越えた仙太郎は、宗十郎の額目がけて木刀を振り下ろした。
 だが、かつん、という音と共に、仙太郎の木刀は少しだけ跳ね上げられ、横に流れた。

 宗十郎が、片手で木刀を跳ね上げ、落ちてくる仙太郎の木刀を払ったのだ。
 少し、仙太郎が体勢を崩した。

「お、おのれ……」

 思いもよらない反撃に驚きながらも、仙太郎はすぐに木刀を構え直した。
 先までとは違い、構えに隙がなくなっている。
 あまり油断していては危ないかもしれない、と気付いたようだ。

「まぐれで避けても、そこまでよ。先はわしも油断していた故。最早わしに油断はないぞ」

 口元を歪め、仙太郎は、じりじりと間合いを詰め始めた。
 宗十郎は変わらず、片手で木刀を下げたまま身じろぎもしない。
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