行雲流水 花に嵐
第八章
 次の日、宗十郎は早速行動を開始した。
 とりあえず、おすずの様子を探ってみようと、聞いていた仕舞屋に向かう。

---この辺りのはずだがな---

 通りを歩きながら辺りを見回していた宗十郎は、ある路地に差し掛かったところで足を止めた。
 路地の先の植え込みに、人がいる。
 駒吉だ。

 件の仕舞屋を張っているのだろう。
 宗十郎は慎重に辺りを窺いながら、そろそろと駒吉に近付いた。
 顔を上げた駒吉が、宗十郎に気付いて手招きする。

「どうだい。何か変わりはあるか?」

「いえ。けど昨日辺りから、人の出入りが激しいってか……。つか竹次の野郎が頻繁に来まさぁ」

 おすずを特別座敷に入れる準備だろうか。
 そちらにやってしまえば、竹次もそうそう会えないのだろう。
 今のうちに楽しんでいるらしい。

「今は? 誰がいる?」

「今は竹次の手下が二人いるはずでさぁ。大体二人で詰めてるんで」

「ふーん。忍び入るなら今だなぁ」

 おすずを言いくるめて特別座敷の内情を探るよう伝えようかとも思ったが、おそらくあの娘にそれは無理だろう。
 それに相当弱っているようだし、これは早めに救い出したほうがいい。

「おすずを先に助け出しゃ、亀松一家も大きく動くだろ。もしかしたら、おすずに座敷のことを話しているかもしれねぇし、そしたら座敷自体をどっかに移すかもしれねぇ。見世の奴らを張ってりゃ、何かわかるはずだ」

 当初はおすずが座敷に放り込まれるまで待つ予定だったが、太一が攫われてからすでにかなり経つ。
 これ以上待っていられないし、そもそもおすずが座敷に入ったところで探索を命じているわけではないので役には立たない。

 自主的に探ってくれればいいが、あの娘にはそこまで期待していないので、人質が一人増えるだけだ。
 特別座敷がどこにあるかにもよるが、場所によっては脱出するのに足手まといになる可能性もある。
 お荷物は子供である太一だけで十分だ。
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