行雲流水 花に嵐
「それなんだがな。それだと上月の坊がいなかったときが厄介だろ。まずは坊がいることを確認することが先決だ。坊の状態もあるしなぁ」

「確かに。生きては……いるよな」

「おや旦那。やっぱり甥っ子は心配かい?」

 ちょっと意外そうに、要蔵が言う。
 宗十郎は徳利から酒を注ぎながら、少し笑った。

「ガキは嫌いだし、別に肉親の情もないが、あいつにゃ罪はねぇからな」

「そうね。親がどこぞの女に入れ込んだ挙句、借金の形に攫われて殺されちゃ堪んないわよねぇ」

 片桐も同意する。

「じゃあとにかく、片桐の旦那は奴らについて行って、上月の坊を確認してくれ。新しい場所も割れるしな」

「了解。あと宗ちゃん、竹次を見つけたら、殺っちゃっていいわよ。もうあいつは用無しだからね」

 要蔵の指示を受け、片桐が頷いた。
 宗十郎は、おや、と猪口を口に運ぶ手を止めた。

「でもあいつぁ、亀松一家じゃそれなりの地位だろ? 今回の移動にもついて行くんじゃねぇのか?」

「下っ端を束ねてるってだけで、そんな力はないわよ。それにあいつ、おすずちゃん逃がした咎で、勝次にお仕置きされてね。足に匕首ぶっ刺されたから、今はそうそう動けないわ。でも宗ちゃんの探索をキツく言い渡されてるから、特別座敷の移動には加わらない。見切られた感じね」

「ほ~。あいつをとっ捕まえて吐かせることも考えてたんだが、もっと簡単に事が運んだな」

「あたしの根回しの良さを褒めなさい」

 おほほほ、と高笑いする片桐をあしらい、宗十郎は刀を掴んだ。

「殺っていいなら楽ちんだぜ。生け捕るほうが難しいからな」

「竹次も後がなくなって必死だから、確かに生け捕るほうが難しいわ。手負いの獣よ。とりあえず、おすずちゃんに害がないように気を付けなさいよ」

「俺が気を付けるのは、そこだけだぜ」

 宗十郎のほうが、早く戦闘に入りそうだ。
 ちょっと羨ましそうな色が、片桐の顔に浮かんだ。
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