行雲流水 花に嵐
第十章
 その日、久しぶりに宗十郎は要蔵の離れにいた。

「片桐の居所がわからねぇだと?」

 宗十郎の問いに、要蔵が眉間に皺を刻んだまま頷いた。

「どういうこった。亀屋に動きがあったんだろう?」

「そのはずだったんだがな。どうも、それらしい動きがねぇんだ。同時に、片桐の旦那の姿もぱったり」

「離れの女どもを移動させるとか言ってたじゃねぇか。そこについて行ってるんだろ?」

「そう聞いてる。だが亀屋に目立った動きはねぇし、何より片桐の旦那からの連絡がねぇと、中の様子はわからねぇし……。どこ行っちまったんだ」

 亀屋の特別座敷の女をどこかに移動する。
 その一行の中に、片桐が入った。
 片桐は、そのときに特別座敷に太一がいるかを確認し、移動後すぐに要蔵に連絡する予定だったのだ。

 だがそう決めた翌日から、片桐の姿が消えたという。

「まさか殺られたんじゃねぇだろうな」

「それはねぇだろ。向こうについた、とも思えねぇし」

 掴み処のない変態ではあるが、腕っ節はいいし、そう簡単に人を裏切る奴でもない。

「どうしたもんかなぁ」

 う~ん、と要蔵が頭を抱えた。
 太一の居場所がわからないと、こちらとしても動けないのだ。

「上月家から文は来るし」

「馬鹿当主からか?」

「いや、その奥方よ」

 困った顔のまま、要蔵が文を宗十郎の前に置いた。
 開いてみると、早く息子を取り戻して欲しい、という訴えが、切々と書かれている。

「まぁ母親としては当たり前か」

「それを持ってきた小者がなぁ、口頭で追伸を付け足したんだが。当主は当てにならない、遊女のことなんかどうでもいいから、とにかく太一を救い出してくれってよ」

 苦笑いして言う要蔵に、宗十郎も笑った。
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