行雲流水 花に嵐
「ヤス! 何ぼっとしてやがる!」

 匕首を拾い上げながら、竹次が怒鳴る。
 その声に、固まっていた男が、わっと声を上げて宗十郎に向かってきた。
 が、宗十郎の正面だ。

 宗十郎は刀を振り上げたが、その隙に後ろから竹次が突っ込んで来る気配を感じた。
 捨て身の攻撃ほど厄介なものはないのだ。

 ち、と小さく舌打ちし、宗十郎はヤスの腹に思い切り蹴りをぶち込んだ。
 そのまま刀を後ろに向かって突き出す。
 ヤスは吹っ飛び、宗十郎の手に、確かな手応えが伝わった。

 刀は、竹次の肩に突き刺さっている。
 宗十郎はヤスともう一人の男が動かないのを確かめると、竹次に歩み寄った。

 顔を歪め、竹次は肩に刺さった刀を引き抜いて逃げようとする。
 宗十郎はいきなり大きく踏み込み、さっと刀を振るった。

「ぎゃあっ!」

 竹次が仰け反って叫ぶ。
 竹次が背を向けて駆け出そうとした瞬間、宗十郎が竹次の脛を斬ったのだ。
 転がった竹次の首のすぐ横に、宗十郎は刀を突き刺した。

「……」

 血の流れる脛を押さえながら、竹次が目だけを上げて宗十郎を見る。
 ここまで一言も喋らない宗十郎の不気味さに、ぶるぶると身体を震わせた。
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