硝子玉
「……」

「普通ならあんな最低な奴、見捨てるんだろうけど。
『家族が欲しいだけなのに、なんでだめなの?』
ってきょとんとした顔で云われたら、もう」

「……家族、ですか?」

「そう。
夏帆ちゃん、あいつの本、読んだことある?
あそこに書かれてるのがあいつの理想」

……一冊だけだけど。
そこに書かれてたのは、温かくてどこまでも優しい関係の家族。

「ああいう家族が欲しい癖に、遣り方が間違ってることに気付いてないんだ。
しかもあいつ自身、恋愛というか愛情というか音痴ときてるからさらにたちが悪い。
……けど。
夏帆ちゃんなら、って」

「なんで私?」

「夏帆ちゃんと話してるときの翠の笑顔。
あんなのいままで見たことなかったから、さ」

……ああそうか。
翠さんはただ不器用で、自分のこと全然わかってなくて。
ほんっとに莫迦なんだ。
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