硝子玉
「だから……」

再び、唇を重ねる。

薄く目を開けてみるとレンズの奥の目と視線が合った。

その目が柔らかく笑って、安心して目を閉じる。

翠さんの手が、そっと私の身体にふれた。

昨日とは打って変わって優しいキスに、私は身を任せた——。

 
それから。
翠さんは「売れない作家」から「売れっ子作家」に転身した。

なんでも編集者さんに
「嘘っぽさがなくなったから」
とか云われたらしい。

本人は
「なんでだろうね?俺は変わってないんだけど?」
って笑ってるけど。

……ねえ。

もう、私を見つめる冷たい硝子玉はない。
代わりにあるのは温かい瞳。

私の名前はすぐに「棗夏帆」から「桐崎夏帆」に変わり、それでもまだ毎日、あのカフェで翠さんが来るのを待っている。



【終】
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