硝子玉
カフェに勤め始めて半年ほどがたち、街が秋めいてきた頃。
その日は休みで、早くも始まった秋物のセールなんか見て回ってた。

お昼ごはんはなに食べよう、そんなことを考えながら歩いてたら、往来の真ん中で女性の金切り声。
云い争ってる……というよりも女性が一方的にまくし立ててる。

……こんなところで喧嘩?

若干引き気味にちらっとだけみて行こうとしたら、相手の男性と目が合った。
目が合った男性——翠さんは暢気に、私に手なんか振ってくる。

……ええーっ。
どうしよう。

とか思った次の瞬間。

 バッチーン!!
 
派手な音とともに女性の掌が翠さんの頬にクリーンヒットした。
かなり痛かったらしく、しゃがみ込んでしまった翠さんにふん!と鼻を鳴らすと女性は足音荒くその場を去って行った。


「格好悪いとこ見せちゃったね」

近くの公園のベンチに座った翠さんに、濡らしてきたハンカチを差し出す。
ハンカチが当てられた頬は見るからに痛そうに腫れていた。
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