硝子玉
「……でも、あれは翠さんが悪いと思います」

「ははは。
……しかし、久しぶりのビンタは効くなー」

いてて、そう云いながら翠さんは笑っているけれど。

……久しぶりって?

「いつもだよ、あんなこと。
今回はたまたまちょっと間が開いてただけで」

自分の考えが見透かされてるようでどきっとした。
翠さんの顔からはさっきの嘘くさい笑顔が消えている。

「俺は最低の人間だから、さ。
女にビンタ食らうことなんて日常茶飯事。
……軽蔑したでしょ?」

私に向けられる、レンズのむこうの硝子玉みたいな目。

「……軽蔑するって云えば満足ですか?」

「え?」

……硝子玉の奥がほんの少し、揺らいだ気がした。

「翠さんは私が軽蔑するって云えば満足ですか!?」
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