硝子玉
「……わかり、ました」

……このとき私は。
店長が嬉しそうに笑っていたことなんて知るよしもなかった。


店長に渡されたお鍋を手に翠さんの住んでるマンションに向かう。

マンションまで徒歩十分。
たったそれだけの距離なのに、どれだけ歩いても辿り着かない気がする。

……どんな顔して会えば。
店長に頼まれましたって、さっさと渡して帰っちゃおう。

 ピンポーン。

……あれ?出ない。
寝てるのかな。
店長は絶対いるから大丈夫って云ってたけど。

 ピンポン、ピンポン。

『……煩い』

「あ、あの。棗、です。
店長に頼まれて、その」

『……。
開けとくから勝手に入って』
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