差し伸べた手
直はとても優しかった。

今まで出会ってきた人にはいないタイプだった。

作為的な優しさではなく内面から溢れ出す優しさなのだ。

口調も柔らかく攻撃的な事は一切言わず、愚痴や他人の悪口も直の口から聞くことはなかった。

きっと育ちが良く直の両親が彼に優しく接してきたからだろう。

口調は育てられた環境に大きく起因するらしい。

子供は両親から言葉を学んでいくからだ。

特に母親の役目は大きくいつも怒っている母親ならば、子供も攻撃的な口調になるというし、柔らかい言葉で接していれば子供もそれを受け継ぐという。

きっと直の母親は優しい口調で直に接していたのだろう。

亜子が東京で働いていたときは人の悪口、会社の愚痴、取引先への攻撃、仕事仲間同士の嫉妬、競争相手の足の引っ張り合い、人間の嫌な部分ばかりを見てきた。

次第に自分もそういう人間になっていることも気づかず他人を傷つけた。

直みたいな人ばかりだと世界は平和なのにと思ったがそんな直が逃げ出したいほど直も嫌な世界に居たのだ。

一体どんな世界だったのだろう。

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