差し伸べた手
穏やかな日々を数週間過ごした後、亜子はこの先のことを考え始めた。

いつまでも実家に甘えていても仕方ないし何かしたいという思いも出てきたのだ。

一番自分がしたいことを自分に問う。

今まで自分を偽って生きてきたのかも知れない。

大好きな洋服に係わっていたのに、決して自分が薦めたい服を売っていたわけでもないし、それどころか品質が悪いとわかっていて利益優先で売った商品ばかりだった。

本当に着心地が良く長く愛せる洋服とはどんどん離れていってしまった。

そんなことを考え、亜子は久しぶりにスマホを手に取り一件の電話をかけた。

その後、久しぶりに車に乗り町の不動産屋に出掛けた。

条件をいくつか挙げて資料を片っ端から見せて貰いネットで見た物件の詳細も詳しく教えて貰った。

当初不動産屋はどうしてこんなに辺鄙な所に住むのか、本当に大丈夫なのかと心配したが亜子の真剣な表情にただの憧れの田舎暮らしではないと察して懸命に探してくれた。

数件見学し、お気に入りの物件に目星を付ける。

建物は少し修理が必要だが充分な広さで問題なかった。

広い玄関、十畳程のリビングダイニング、寝室、小さな物置部屋もついていた。

近くの畑は無料で自由に使用できると言われたが、その範囲が広すぎてどこまでなのかが理解出来ないほどだった。

貸し主も長年この地には帰っていないようで好きに使ってくれていいし、手を加えて貰ってもいいと言ってくれた。

家は家主を失うとどんどん傷んでしまうので、亜子が借りたいというととても喜んでくれた。

家も空気を入れ替えたり手を加えたりしてあげないと死んでしまうのである。

その後修理屋さんも手配し水回りを新しくし、機密性を高めるリフォームを施した。

夏は涼しくクーラーは必要ないが冬は薪ストーブが必須だと思いすぐに取り付けた。

その後何度か訪れてはネットを見ながら見よう見まねでリフォームをしていき理想の内装に近づけていった。

東京で出来なかった、部屋を飾るという事にも熱が入り、お気に入りの雑貨や食器を揃えていった。

特に広い手作りのウッドデッキには力が入り当初の予定よりかなり広くなってしまったが季節のいいときにここで寝ころぶことを考えると多少の作業も乗り越えられた。
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