差し伸べた手
両親は特に反対もせず逆に北海道に残ってくれることを喜んだ。

ただ余りの僻地に大丈夫かと心配したがインターネットで何でも買える時代だし、仕事の目処もついていると説明したら渋々納得してくれた。


バイヤーをしている頃に大好きだったメーカーがあった。

その洋服は縫製がよく着心地が抜群で特にTシャツのような単純な物を他社の物と比べるとその違いが歴然で肌触り、締め付け感、洗濯後の状態、縫製全てが亜子好みだった。

店長もここの商品はすごく良いと言っていたが品質が良いだけあって価格も高くなるので、若年層ターゲットの亜子の店では売れ筋ではなかった。

デザイン的にも一見シンプルに見えるが非常に凝っていて、目の肥えた人達からはここの服を着ているとよく 「どこのブランド?」と聞かれた。

ただ国内で熟練した職人さんが縫製していたのでロット数が少なく回転率を求めるお店には敬遠されていた。

しかし亜子は、このメーカーの商品を気に入り、お店で少し仕入れて店の片隅に置いたりした。

在庫になれば亜子が全て引き取った。

ここの商品だけは安売りしたくなかったのだった。

あのメーカーの商品をもう一度扱いたいと考え、メーカーさんに少数だけどネットで販売させて欲しいと電話でお願いしたのだった。

亜子の声を聞いてその頃担当者だった者はとても喜んでくれた。

やはり業界で私が薬を飲んで救急車で運ばれたことが耳に入ってしまっていたらしくとても心配されてしまった。

担当者は亜子が自分達の商品を凄く愛していてくれたこと、店舗で一生懸命お客さんに勧めてくれたことを覚えていてくれて二つ返事でOKしてくれたのだった。
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