差し伸べた手
学校が休みの日も強制的に本を与えられて読書をさせられ、数日後その本を読んでいるか確認するため内容を尋ねられ読んでいないとわかると叱られた。

しかし直は反発することなく父親の敷いたレールの上を一度も踏み外さずここまできた。

いつも管理されて育ってきたので自分で選択するという力が備わっていなかったのかも知れない。

しかし直はそんな生活に満足していた。

与えられる物以外、特別欲しい物はなかったし、小学校では自転車、高校生になるとパソコン、大学生の時には車を買い与えられ、物質的に不自由がなかったからだ。

社会人になったときにクレジットカードを渡されて

「これから自分で好きなものを買いなさい」と言われたが、カードを使うと明細で何を買ったか知られてしまうし、特に買いたいものも無かったので、使用することはあまりなかった。

自由にといいながら、管理しているという点が父親らしい。

それに、ブラックカードというランクも、父親の力があるからで、お店で自分がこのカードを出すのは気が引けたし恥ずかしい。

それら、どれも自分が欲しいと言ったわけではない。

父親が先回りをして与えてくれたのだった。厳しい父親だったが、週末は必ず家族全員で食卓を囲んだ。

その為大学生になっても週末は友人と遊びに行ったとしても夕食時には家に帰った。

きっとこれが今の定時退社の規定に繋がっているのだろう。

その他勤務時間や勤務態勢にも社員の自主性が重んじられており、始業時間は九時でも十時でも問題なかったのだ。

その為、子供のいる女性や男性でも奥さんの代わりに子供を保育所に預けに行ったり出来た。

また会社に来なくても家で出来るようなものならば家のパソコンで作業も可能で、オフィスと家庭でネット会議をしている部署もあり社員にとっては働きやすい会社として有名だった。

時間や場所に囚われない会社として経済雑誌でも取り上げられるほどだった。

そうなると自由にしすぎてサボったりする人間が出てくるのではないかと思われるが、それは全くの逆だった。

社員らはこれらの制度が不正に使用され、制度自体がなくなってしまうのを避けるために、とても有効に利用されており業績も上がっていた。

時間や働き方に縛られ手放してしまっていた優秀な人材も長く勤められるようになり、就職先として人気が高まり更に優秀な人材を呼んでいたのだった。
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