差し伸べた手
翌日、小川を呼び出して近くのカフェに行った。

親しくもない直が小川を呼びに行ったときには驚いていたが真剣な顔で 「話がある」と伝えると渋々やってきたのだ。

直は率直に聞いた。

昨日備品室で小川が商品を大量に袋に入れていたこと、それをたまたま見ていたことを。少し驚いた様子だったが、すぐに小川は開き直っていった。

「どうせ捨てる物だろ。少しくらいいいじゃないか。どしてお前にそんなことを言われなきゃいけないのだ」と。

「それはこの会社の次期社長だから」と言えば話は早かったのだが今ここでは言えない。

同期として話しをしているのだ。

「あんなに大量に持ち帰ってどうしているんだ?流通したらまずいってわかっているはずだ」

「なんだ。えらそうに。ばれないから大丈夫だよ。日本でさばくような馬鹿なことはしていない。海外の業者に一括で売り飛ばしているんだよ。海外でなかなか手に入らない商品で人気があるからタダの商品が倍の値段で売れる。お前もやってみる?いい小遣いになるよ」

直は呆れながら

 「黙っておいてやるからもう辞めろ。頼む」

「なんだ、正義感を振りかざしやがって。お前みたいな人間が一番嫌いなんだよ。わかった。やらないよ」と

言ってさっさと席を立ってしまった。
 
本来ならば会社に対する背任行為だ。

すぐに処罰しなければならない。

それに海外といえどもブランドイメージを壊す行為で粗悪品が出回ることでブランド価値も下がり損失は計り知れない。上に報告するべき事案だろう。

しかしそれは小川を首にするということと同じだ。

直は迷ったがもうしないといった言葉を信じることにした。

そしていつか直が社長に就任すれば小川も今の直の行動を理解するだろう。
 
それから数日後、小川から着信が入る。

「吉沢、話があるから今日備品室に来てくれないか」

「わかった」と電話を切る。

今日は金曜日で定時退社の日だ。

誰も居ないのが都合がよいということか。

備品室には時間通りに行ったがまだ小川の姿はなかった。

その奥の扉前にはいつものように粗悪品の箱が積み上げられていた。

直はその一番上の箱を開けて商品を確認するとぎっしりとトートバックが詰まっていてどうやら抜いていないようだと安心し再びダンボールの蓋を閉めた。

その後何分たっても小川が来ないので電話をかけたが留守電になっていた。

フーッと溜息をつき会社を後にした。
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