差し伸べた手
それから数日後社内中のファックスに次のような文書が書かれた物が届いた。

「吉沢直は会社の商品を横流ししています」という文と一緒に丁寧に直が箱を開けている画像もカラーで印刷されていた。

「しまった。はめられた」と思ったときには遅かった。

社内は騒然となりすぐに社長室に呼ばれる。

直は社長に全て話した。

そしてこの画像も小川に呼び出され時に撮られた物だと訴えた。

「お前がそんなことをするはずがないのはわかっている。ただこんなものが出回ってはそれを否定するためには小川から本当の事を言って貰うか、そうでなければ警察に突き出すしかない。このまま会社としてお前の言い分だけを聞くことは出来ない」

そして、小川も社長室に呼び出された。

社長室に入ってきた小川は直と視線も合わせず、全く知りませんという顔で

「何の事かわかりません」とシラを切り通した。

社長は

「今、正直に言えばこのまま社内で処理するが、吉沢がやっていないと言うならば、被害届を出すことも考えている」と言ったが顔色一つ変えなかった。

小川が出て行った後

「最後の手段だな」と社長に言われた。

しかし一人の人間を警察に突き出すということは今後どうなるかは想像できる。

しかしこのままでは直の会社での立場も危ういのだ。社長は続ける。

「直、ここでお前はどうするか決めるのだ」

社内に戻った直に他の社員の視線は冷たかった。

元々他の社員と付き合いをしてこなかった為 「変わり者」と言われていたのは知っていたが、その「変わり者」のレッテルは「犯罪者」のレッテルに変わっていった。

それに通常の日は勿論、定時退社の日もいつも残業していたことも噂に拍車をかけた。
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