差し伸べた手
最近色んな事がありすぎて深い眠りについていなかった。

電車の揺れが心地よく久しぶりに深い眠りについたのだろう。

気づいたら目的地の北海道にいた。

車窓の景色を楽しみたかったのに少し残念だったが、これから存分に景色は見ることが出来るのだ、父親の管理された旅行のように限られた時間で決まったスケジュールもない。

随分日も暮れていたのでどこか宿泊先を探そうと思い、駅から出てすぐのビジネスホテルに入り翌日からの事を考えることにした。

とにかくこの写真集にあるあの風景を見に行こう、あの最果ての地に行こう。

翌日、うきうきしながらホテルのフロントで会計をすまそうとクレジットカードを出すと

「使用できません」と言われた。

「やられた」親父のやりそうなことだし、よく考えればそうなることは予測出来たのに前準備を怠ってしまった。

こういう所が親父と僕の仕事に対する差なのかな。

財布から現金を出し支払いを済ませてATMに走る。

やはり預金も下ろせなくなっていた。今の持ち金では長期間滞在する事は出来ない。

家に強制的に戻るようにし向けて居るのだな。しかしここまで来たからにはあの風景だけは見たい。

見てから先の事を考えればいい。

とにかく行こう、あの場所へ行こう。

携帯の電源を切る前に行き方は頭に叩き込んでおいた。

普通はタクシーを使って行くらしいが現金を無駄に使ってしまっては危険だ。

歩けないこともないだろう、行ってみよう。
< 36 / 48 >

この作品をシェア

pagetop