差し伸べた手
ツアーで案内するときに直が一番感動していたあの丘に行くたびに胸が締め付けられたが、今ではあの素晴らしい時間を与えてもらえたことに感謝している。
直との思い出だけでこの先ずっと生きていける気がしていた。
そんなある日、亜子の携帯が鳴る。
掛かってくるのは両親かチラシを置いてもらっているホテルからである。
電話を取ると知らない男の声だった。
話を聞いている内に驚いた。
その男性はあの写真集を作ったカメラマン池沢ひろしだったからである。近くに来ているのでいくつか案内して欲しいという依頼だった。
もちろん承諾はしたのだが毎日眺めている写真集を作った人がまさかこんな所に来るとは思っていなかったので久しぶりにドキドキする。
どこへ案内してほしいのだろう、あの丘の写真はもう既に撮影済みのはずだし、新しいスポットがあるのだろうか。
約束の時間になると、池沢の車が向こうからやってきた。
車から降りてきた池沢は日焼けしている笑顔が印象的な五十代くらいの方で丁寧な自己紹介が人柄を語っている。
亜子も軽く会釈をして握手を交わす。
「突然すみません。どうしても撮りたい場所があったのであちらこちらに聞きましたら、現在あなたの管理している場所だということがわかりましたのでご連絡差し上げました」
「どの場所ですか?」
「ラベンダー畑です」
「ここは数年前に来たのですが、その時にはなかったものですから」
「あれは、私がここに来て植えたものです。大切な人に種を頂きまして育てていました。完成したのは去年です」
「そうですか。是非案内して下さい」
「はい」
店長に貰ったラベンダーの種。
紙袋にぎっしり詰まっていたのを全部残らず蒔いて大切に育て、今では息をのむほどの景色を作り上げていた。
たまたま見た個人のブログ記事でこのラベンダー畑を知ったという。
歩いてすぐの場所にその風景は広がる。カメラマンは次々とシャッターを切る。
シャッターを一頻り切った後足元を指さして亜子に尋ねる。
「これは何でしょうか?」
そこに 「あなたを待っています」という苗札がさしてある。
「これはラベンダーの代表的な花言葉です」
「そうですか。素敵ですね」
撮影が終わりデッキに戻りコーヒーを出す。
そして亜子は写真集を渡してサインをもらった。
写真集を渡したときは驚いていたが、あの丘が撮影されている事、その場所が亜子のお気に入りだということを伝えると嬉しそうにサインを書いてくれた。
そしてあの丘の風景がどれだけ魅力的か、どれだけ人の心を癒やものかとお互いの思いを共有出来て嬉しかった。
そしてツアー客が池沢さんの写真集を見て訪れてくれるので助かっていると伝えると照れながらコーヒーを慌てて口に含んだ。
池沢さんも北海道の出身で、故郷の美しい風景を多くの人に見て貰いたくて写真を撮っており、当初は誰もが知っている有名な絶景スポットを中心に撮影していたが、次第に地元の人だけが知る景色や自分の足で探した景色を撮影するようになったらしい。
北海道は広い為撮影する時にはレンタカーを借りてそれを宿にしながら数日掛けて移動しながらシャッターを切る。「奇跡の丘」もたまたま見つけた絶景で時間毎に表情を変えるので何日も通って撮影したという。
池沢さんはデッキに寝転がりながら、空にレンズを向けてシャッターを切っていた。
次の目的地は更に奥へ行くらしい。二人で再会を誓い別れた。
直との思い出だけでこの先ずっと生きていける気がしていた。
そんなある日、亜子の携帯が鳴る。
掛かってくるのは両親かチラシを置いてもらっているホテルからである。
電話を取ると知らない男の声だった。
話を聞いている内に驚いた。
その男性はあの写真集を作ったカメラマン池沢ひろしだったからである。近くに来ているのでいくつか案内して欲しいという依頼だった。
もちろん承諾はしたのだが毎日眺めている写真集を作った人がまさかこんな所に来るとは思っていなかったので久しぶりにドキドキする。
どこへ案内してほしいのだろう、あの丘の写真はもう既に撮影済みのはずだし、新しいスポットがあるのだろうか。
約束の時間になると、池沢の車が向こうからやってきた。
車から降りてきた池沢は日焼けしている笑顔が印象的な五十代くらいの方で丁寧な自己紹介が人柄を語っている。
亜子も軽く会釈をして握手を交わす。
「突然すみません。どうしても撮りたい場所があったのであちらこちらに聞きましたら、現在あなたの管理している場所だということがわかりましたのでご連絡差し上げました」
「どの場所ですか?」
「ラベンダー畑です」
「ここは数年前に来たのですが、その時にはなかったものですから」
「あれは、私がここに来て植えたものです。大切な人に種を頂きまして育てていました。完成したのは去年です」
「そうですか。是非案内して下さい」
「はい」
店長に貰ったラベンダーの種。
紙袋にぎっしり詰まっていたのを全部残らず蒔いて大切に育て、今では息をのむほどの景色を作り上げていた。
たまたま見た個人のブログ記事でこのラベンダー畑を知ったという。
歩いてすぐの場所にその風景は広がる。カメラマンは次々とシャッターを切る。
シャッターを一頻り切った後足元を指さして亜子に尋ねる。
「これは何でしょうか?」
そこに 「あなたを待っています」という苗札がさしてある。
「これはラベンダーの代表的な花言葉です」
「そうですか。素敵ですね」
撮影が終わりデッキに戻りコーヒーを出す。
そして亜子は写真集を渡してサインをもらった。
写真集を渡したときは驚いていたが、あの丘が撮影されている事、その場所が亜子のお気に入りだということを伝えると嬉しそうにサインを書いてくれた。
そしてあの丘の風景がどれだけ魅力的か、どれだけ人の心を癒やものかとお互いの思いを共有出来て嬉しかった。
そしてツアー客が池沢さんの写真集を見て訪れてくれるので助かっていると伝えると照れながらコーヒーを慌てて口に含んだ。
池沢さんも北海道の出身で、故郷の美しい風景を多くの人に見て貰いたくて写真を撮っており、当初は誰もが知っている有名な絶景スポットを中心に撮影していたが、次第に地元の人だけが知る景色や自分の足で探した景色を撮影するようになったらしい。
北海道は広い為撮影する時にはレンタカーを借りてそれを宿にしながら数日掛けて移動しながらシャッターを切る。「奇跡の丘」もたまたま見つけた絶景で時間毎に表情を変えるので何日も通って撮影したという。
池沢さんはデッキに寝転がりながら、空にレンズを向けてシャッターを切っていた。
次の目的地は更に奥へ行くらしい。二人で再会を誓い別れた。