差し伸べた手
そして直の事も話した。突然現れたこと、一ヶ月間暮らしたこと、そして突然居なくなったこと、彼が吉沢コーポレーションの社長の息子だということも。

一通り聞き終えると

「わかった。もし亜子がその男と連絡を取りたいなら私に言いなさい。私は東京に住んでいるのよ。吉沢コーポレーションにいくらでも乗り込んであげるわ」

店長らしい答えに思わず笑ってしまった。

その姿を見て店長は

「亜子、好きな人が出来るって事は、もう大丈夫ね。安心したわ」

「店長は好きな人、居ないんですか?」

「男は懲り懲りよ」

照れ屋な店長が恋愛話から逃れるための台詞ということを亜子は知っている。

そして亜子は今回の目的であるラベンダー畑を案内する。

家から徒歩五分ほどの所に紫色の絨毯が広がっており、店長は奥まで広がるラベンダー畑を見て涙をこらえているようだった。

もちろん亜子には絶対その姿は見せまいとして、不自然に背中を向けている。

亜子は 「あなたを待っています」と書いてある苗札を指さして

「待たせてごめんなさい。思ったより時間がかかっちゃいました」と言って続ける。

「だって、店長、種、多すぎ。全部植えるの大変だったんですからね」とふくれた顔をすると

「馬鹿みたいに全部植えるからよ」と二人で笑った。その後亜子のお気に入りの丘からの絶景も案内した。

店長は黙ってその風景を胸に焼き付けるようにしばらく見ていた。

その後二日間滞在し店長はこの地を後にした。別れ際には

「あのラベンダー畑、枯らしたら承知しないわよ」と怒った振りをする。

「わかりました」

ハグをして別れた。

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