いなくてもいい私が、いたあなた
『あずさちゃん…。お父さん、遅いね』

『うん…』

もうすぐ6時。

いつもなら家に帰ってお父さんとご飯を食べてる時間だ。

『奈々子先生』

『どう? あずさちゃんのお父さんと連絡取れた?』

『それが…何回もかけてるんですが…』

『お母さんは?』

『同じ…です…』

『そう…』


『奈々子先生…。お父さん…忘れちゃってるのかな?』

『何言ってるの。あずさちゃんを忘れるわけないじゃない。
大丈夫。お父さんは必ず迎えに来るから…』

7時過ぎに迎えが来た。

『遅くなってしまって、すみませんでした』

『いえ、お母さんと連絡が取れてよかったです』

『あずさちゃん、良かったね』

『さぁ、あずさ。帰りましょう』

『あずさ、帰らない。お父さんが迎えに来るまで待ってる』

『あずさ、お母さんが迎えに来たじゃない。
帰りましょう?』

『ダメだよ! お父さんはあずさを迎えに来るんだもん!
必ず迎えに来るんだもん!! そうでしょ? 奈々子先生』

『あずさちゃん……。

お母さんと一緒に帰りましょう……』

私を哀れむような目で見た奈々子先生。

……忘れられない。

だって…お父さんは迎えに来ないんだって


知ってしまった瞬間だったから。
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