クリムゾン・プロトコル
log. 02 青
「馬を下りて、君に酒を飲ましむ」
青くんの少しかすれた響きの声が、教室を心地よく満たす。
『君に問う』という朴訥で哀愁に満ちた第二句を、私は口の中で一緒に詠んだ。
「そこまで。出席番号、次…また小野か、女子のほうだな。続きを読んで」
「はい」
青くんと入れ替わりに紅未子が立ち上がる。すっとしたきれいな姿勢で、両手に教科書を持つ紅未子は、そこにだけ光があたっているように淡く輝いて見えた。
青くんは紅未子が読み上げる間、頬杖をついて見守り、終わると安心したように息を吐いてノートに目を戻した。
あれは去年の冬。
『姉貴べったり』
教室内からそう聞こえてきたとき、私は戸口をくぐりかけた足を思わず止めた。一緒にいた青くんは、紅未子と同じ、少し青みがかった不思議な茶色の瞳で、教室の中をじっと見ていた。
私たちには気づかず、会話は続いた。
『それよりあの、おまけちゃん、なに?』
『弟、絶対あれ好きだよね』
『姉貴かあれだけじゃね、弟が話しかける女子って?』
『言えてる』
数人の女の子たちがギャハハと楽しそうに笑った。全体的におとなしめなこの学校では少数派の、派手なメイクに気合いの入った髪形の子たちだ。
私は青くんを振り返って、『帰ろ』と促した。
運悪くHR委員を引き当ててしまった時期だった。その日は隔週でやってくる自由HRについての打ち合わせのため遅くまで残っていて、部活帰りの青くんと一緒になったのだ。
レポート課題の出た生物の資料集を忘れたことに気づき、教室に取りに戻ると言った私に、もう暗いからと青くんはついて来てくれた。
間の悪いところに引き合わせてしまった申し訳なさに、身の置き場がなかった。
青くんの少しかすれた響きの声が、教室を心地よく満たす。
『君に問う』という朴訥で哀愁に満ちた第二句を、私は口の中で一緒に詠んだ。
「そこまで。出席番号、次…また小野か、女子のほうだな。続きを読んで」
「はい」
青くんと入れ替わりに紅未子が立ち上がる。すっとしたきれいな姿勢で、両手に教科書を持つ紅未子は、そこにだけ光があたっているように淡く輝いて見えた。
青くんは紅未子が読み上げる間、頬杖をついて見守り、終わると安心したように息を吐いてノートに目を戻した。
あれは去年の冬。
『姉貴べったり』
教室内からそう聞こえてきたとき、私は戸口をくぐりかけた足を思わず止めた。一緒にいた青くんは、紅未子と同じ、少し青みがかった不思議な茶色の瞳で、教室の中をじっと見ていた。
私たちには気づかず、会話は続いた。
『それよりあの、おまけちゃん、なに?』
『弟、絶対あれ好きだよね』
『姉貴かあれだけじゃね、弟が話しかける女子って?』
『言えてる』
数人の女の子たちがギャハハと楽しそうに笑った。全体的におとなしめなこの学校では少数派の、派手なメイクに気合いの入った髪形の子たちだ。
私は青くんを振り返って、『帰ろ』と促した。
運悪くHR委員を引き当ててしまった時期だった。その日は隔週でやってくる自由HRについての打ち合わせのため遅くまで残っていて、部活帰りの青くんと一緒になったのだ。
レポート課題の出た生物の資料集を忘れたことに気づき、教室に取りに戻ると言った私に、もう暗いからと青くんはついて来てくれた。
間の悪いところに引き合わせてしまった申し訳なさに、身の置き場がなかった。