クリムゾン・プロトコル
「Tシャツも買ってこようか?」

「いい。一日くらい、なくても平気だろ」


新しいシャツに袖を通しながら、彼がにこりと微笑む。

私は脱いだシャツを拾い上げて、血が見えないように丸めた。そのとき、ベンチの上のブレザーから携帯の振動音がした。

「クミだ」とつぶやいて、青くんが片手でボタンを留めながら上着のポケットをまさぐる。取り出した携帯を見て、小さく息をついた。


「今日は休むって」

「じゃあ私、帰りに寄るよ」

「ありがとう、きっと喜ぶ」


彼が優しく笑って、シャツの裾をズボンに入れる。


「人殴るの、何度目?」

「そんなに、ない」


とたんに気恥ずかしそうな様子になって、答えになっていない返事をした。

それ以上は聞かないことにして、私は部室を出て、シャツを捨てるため再びごみ集積所を目指した。青くんがネクタイを結びながらついてくる。

彼を見ていると近衛兵という言葉が浮かぶ。主に忠誠を誓い、常に寄り添い、自らを犠牲にしてでも守護する親衛隊。




青くんと乗った帰りの電車。他校の女の子たちが青くんを盗み見ている。当人は紅未子との連絡に集中していて、まったく気づいている様子がない。


「クッキー作って待ってるって」

「紅未子、お菓子だけは作れるの、不思議だよね」

「形悪いけどね」


大きな駅で停車したとき、急に車内が混みだした。邪魔にならないようにと胸に抱えたバッグを、彼がひょいと取り上げて網棚に置いてくれる。

吊革の上のバーをつかむ青くんの横顔を、つくづくきれいだなと眺めた。その横に私がいたら、そりゃ二度見したくもなるだろう。目の前に座る仕事帰りらしき若い女の人の視線を浴びながら、そう考えた。
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