クリムゾン・プロトコル
私は普通だ。悪い意味じゃなく、かといっていい意味でもなく、ただ事実として普通だ。

身長も中くらい、体型も中くらい、運動も中くらい。受験勉強だけは頑張って、難関と言われるこの高校に入学した。そして入ったらやっぱり、学年で中くらいの順位に落ち着いた。

突出して人より優れている部分も持っていなければ、ものすごく劣っているところもたぶんない。あくまで普通だ。そして、そうありたいと思っている。

普通が一番。紅未子を見ていると、心からそう思う。




「ありがと、来てくれて」

「クッキー、お土産にも包んでね」

「もちろん」


紅未子が嬉しそうに笑って、スリッパを出してくれた。

一日家から出ていないんだろう、ラフなスエットとパーカーという部屋着姿だ。そんな恰好でも、一瞬見とれるくらいには美しい。

紅未子たちの家は、学校から三十分くらい電車に揺られたベッドタウンにある、タワーマンション群の中の一棟だ。

紅未子が高校に入るとき、県内の別の市から引っ越してきたのだと聞いた。中学校でもうまくやれなかった紅未子に、同じ中学から進学する人のいないこの高校を、両親が選んだらしい。

メゾネットである室内は、一戸建てとまるで変わらない雰囲気だ。玄関の正面の廊下の一角に、上階にのぼる階段があり、廊下をそのまま進めば広いリビングに行き着く。

私は紅未子に続いてリビングに入り、キッチンにいるおばさんに挨拶をした。L字カウンターの優雅なキッチンで夕食の支度をしていたおばさんが、「いらっしゃい」とにっこり笑う。


「夕食どきにお邪魔して、すみません」

「いいのよ、むしろ食べていってくれたら嬉しいわ」

「えっ、ほんとですか。じゃあ家に聞いてみます」


紅未子のお母さんの料理はプロ並みだ。私は母に連絡をして、外食の許可を取った。


「母が、よろしくお伝えしてねと」

「由鶴ちゃんはしっかりしてるわねえ。うちの紅未子はもう」
< 17 / 32 >

この作品をシェア

pagetop