クリムゾン・プロトコル
それから助けを求めるように少し周囲を見回して、け誰もいないことがわかったのか、ようやく手を口から離し、声を出すのにとても覚悟がいるような様子で、ひと息大きく吸った。


『私、新入生じゃ、ないの』


その声の透明さに、切ないくらいあどけない、純真な響きに、私は衝撃を受けた。

突如、体育館の中ががやがやと賑やかになり、新入生の退場が始まったことがわかった。

いけない、職員室に行かないと。この子も誘っていくべきだよね。

そう思って紅未子に声をかけようとしたとき、いきなり後ろから、二の腕を容赦なく引かれた。よろけた私は、くじいた足をとっさについてしまい、痛みに声をあげた。

声に驚いたのか、腕をつかんでいた手が、ぱっと離れた。

支えをなくして本格的によろけた私を、同じ手が再び受け止めた。私はその誰かのほうに倒れ込んで、とっさに向こうの制服をつかんで身体を支えた。

紅未子が気遣わしげな声で言う。


「アオ、乱暴しないで」

「なにか言われたんじゃないのか」

「違う、声かけてくれたの」


少しハスキーな、独特の声が頭上から響いてきて、しがみついている相手が男の子であることに気がついた。

体勢を立て直し、改めて見上げると、背の高い男の子が、人形のような透明感のある瞳で私を見おろしていた。これが青くん。

青くんは私を一瞥すると、ごめんとも言わず紅未子のそばにすっと移動し、盾になるように立った。

私は、彼氏と同じ高校を受けたのかな、どっちも受かるなんて優秀だな、いいな、くらいのことをのんきに考えた。邪魔してもなんだし、ここらで退散しようと別れを告げようとしたとき。


「弟がごめんね。けがしてたんだね」


申し訳なさそうな紅未子のその言葉に、ようやく私は、彼らの容姿がとてもよく似ていることに気がついたのだった。

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