クリムゾン・プロトコル
* * *
翌日も、やっぱり紅未子は学校に来なかった。夜中から熱を出したらしい。
私も通学の電車で何度も不愉快な目にあっているから、多少はわかる。たとえ実害がなくても、標的にされているという事実だけで、どれほど不快で恐怖か。
これはきっと、男の人には完全にはわからない。
あの震えるほどの悔しさと、それを上回る恐ろしさ。紅未子は常にそれと対峙している。いつだって満身創痍だ。
放課後、「小野」と厳しい声が教室に響いた。
「はい」
「ちょっと来い」
帰り支度をしていた青くんを手招きしたのは、渡会(わたらい)先生という世界史教師だ。三十代半ばで、不真面目な授業態度などを絶対に許さない厳しい先生。そして青くんの所属する硬式野球部の顧問だ。
私は少し気になって、青くんを追って廊下へ出た。
ふたりは渡り廊下にいた。校舎の最上階であるこの階の渡り廊下は、手すりがついているだけの吹きっさらしで、教師が同行していないと出られない。
私と彼らの間には、アルミのガラス戸がある。内容まではわからないけれど、渡会先生の厳しい叱責の声は聞こえた。青くんは先生の顔をじっと見て、時折、「はい」と口を動かす。
ふと青くんが視線を下げた。続けて何事か言われ、逃げるように顔をうつむけて、唇を噛んだのが見える。先生はさらに一言二言発してから、くるりと振り向いてこちらへ来た。
私はさっとドアから離れ、放課後の廊下の風景に紛れた。
「いつまでもそこにいるな。さっさと入れ」
先生の鋭い声に、佇んでいた青くんははっと顔を上げ、先生に一礼して教室へ駆け戻っていった。
翌日も、やっぱり紅未子は学校に来なかった。夜中から熱を出したらしい。
私も通学の電車で何度も不愉快な目にあっているから、多少はわかる。たとえ実害がなくても、標的にされているという事実だけで、どれほど不快で恐怖か。
これはきっと、男の人には完全にはわからない。
あの震えるほどの悔しさと、それを上回る恐ろしさ。紅未子は常にそれと対峙している。いつだって満身創痍だ。
放課後、「小野」と厳しい声が教室に響いた。
「はい」
「ちょっと来い」
帰り支度をしていた青くんを手招きしたのは、渡会(わたらい)先生という世界史教師だ。三十代半ばで、不真面目な授業態度などを絶対に許さない厳しい先生。そして青くんの所属する硬式野球部の顧問だ。
私は少し気になって、青くんを追って廊下へ出た。
ふたりは渡り廊下にいた。校舎の最上階であるこの階の渡り廊下は、手すりがついているだけの吹きっさらしで、教師が同行していないと出られない。
私と彼らの間には、アルミのガラス戸がある。内容まではわからないけれど、渡会先生の厳しい叱責の声は聞こえた。青くんは先生の顔をじっと見て、時折、「はい」と口を動かす。
ふと青くんが視線を下げた。続けて何事か言われ、逃げるように顔をうつむけて、唇を噛んだのが見える。先生はさらに一言二言発してから、くるりと振り向いてこちらへ来た。
私はさっとドアから離れ、放課後の廊下の風景に紛れた。
「いつまでもそこにいるな。さっさと入れ」
先生の鋭い声に、佇んでいた青くんははっと顔を上げ、先生に一礼して教室へ駆け戻っていった。