クリムゾン・プロトコル
「先生、さようなら」
「うーい、気をつけて」
先生は振り返りもせず、ひらひらと右手を振って返した。
──私、新入生じゃ、ないの。
紅未子は一年生だけれど、新入生ではないから、入学式に席はない。だからああして、所在なさそうに式が終わるのを待っていたのだ。
どうして紅未子なんだろう。あんなに目立つ子じゃなければ、丸一年休んでまた同じ学年をやり直したところで、誰も気にしなかったかもしれない。
神様はここでも紅未子を選んで。試練を与えるだけ与えて、あとは自分でなんとかしろとばかりにぽいとほうり出した。
ねえ東海林先生、私はね、分相応な容姿と、なにができるわけでも、できないわけでもない凡庸さのおかげで、たいした苦労もなくここまで生きてきた。
だからせめて、紅未子の背負った荷物の重さを、わかっていてあげたいと思うの。
きれいなきれいなその荷物は、知らない人からは羨まれたり憧れられたりする残酷なもので、けれど私だけはその途方もない重さを知っていてあげたいと思うの。
一緒に持つことができれば一番いいんだけど。残念ながらあれは紅未子専用の荷物だから許されない。それがもどかしい。
長い年月、ずっと近くにいる分、青くんの無力感はきっともっと大きい。
全部背負うなんてことができたら、どんなにいいか。もしかしたらそれこそが、私と青くんの本望かもしれない。
なんでそこまでって思うかもしれないけれど、紅未子はね、そういう子なの。信頼されたら、全力で応えずにはいられなくなる、そんな子なの。
あのきれいな瞳と声で『由鶴』って笑いかけられると、ふわっと身体が浮くほど軽く、温かくなって、ああこの存在を守りたいって思うの。
「うーい、気をつけて」
先生は振り返りもせず、ひらひらと右手を振って返した。
──私、新入生じゃ、ないの。
紅未子は一年生だけれど、新入生ではないから、入学式に席はない。だからああして、所在なさそうに式が終わるのを待っていたのだ。
どうして紅未子なんだろう。あんなに目立つ子じゃなければ、丸一年休んでまた同じ学年をやり直したところで、誰も気にしなかったかもしれない。
神様はここでも紅未子を選んで。試練を与えるだけ与えて、あとは自分でなんとかしろとばかりにぽいとほうり出した。
ねえ東海林先生、私はね、分相応な容姿と、なにができるわけでも、できないわけでもない凡庸さのおかげで、たいした苦労もなくここまで生きてきた。
だからせめて、紅未子の背負った荷物の重さを、わかっていてあげたいと思うの。
きれいなきれいなその荷物は、知らない人からは羨まれたり憧れられたりする残酷なもので、けれど私だけはその途方もない重さを知っていてあげたいと思うの。
一緒に持つことができれば一番いいんだけど。残念ながらあれは紅未子専用の荷物だから許されない。それがもどかしい。
長い年月、ずっと近くにいる分、青くんの無力感はきっともっと大きい。
全部背負うなんてことができたら、どんなにいいか。もしかしたらそれこそが、私と青くんの本望かもしれない。
なんでそこまでって思うかもしれないけれど、紅未子はね、そういう子なの。信頼されたら、全力で応えずにはいられなくなる、そんな子なの。
あのきれいな瞳と声で『由鶴』って笑いかけられると、ふわっと身体が浮くほど軽く、温かくなって、ああこの存在を守りたいって思うの。