クリムゾン・プロトコル
——不正直で、これから悪さをするのを楽しんでる人は、困ることはないの?


紅未子はきっと、そう返す。

そうだね。もしかしたらあの人たちは、本当に困っていたのかもしれない。紅未子が行くことで助かる誰かが、本当にいたのかもしれない。なんでも疑ってかかる私たちが非情なだけで、真実は別のところにあったのかもしれない。

そうだったらいいと私も思うよ。

だけどそんな可能性は万にひとつもないことを、私も青くんも知っている。

もう少し賢くなって、紅未子。

用心深くなって、自分を守れるようになって。

そう言いたい気持ちもある。だけど紅未子の、その勇敢な愚かさを、その清らかで臆病な白い心を、なくさずにいてほしいとも思うの。だからそばにいて、せめて守ってあげようと思うの。

勝手だよね、ごめん。

けれど紅未子という生き物に魅せられた人間は、きっと誰でもこうなってしまう。

私と青くんの世界は、紅未子を中心に回っている。




暗がりの冷たいアスファルトに、身体が押しつけられるのを感じた。

青くんと別れるタイミングを狙われていたんだ、しまった。

背中に乗っている誰かを振り落とそうともがいた。まったく甲斐はなく、暴れたお仕置きみたいに

やめて、という当然の抗議すら声にならなかった。怒らせたらなにをされるかわからないという情けない打算で、抵抗する力も出ない。

首をひねって紅未子を探した。少し離れたところに、三人の男の子に毅然と対峙する美しい立ち姿があった。

紅未子にさわるな。

声を出すより早く、後ろの誰かに口をふさがれてしまった。

紅未子が振り向いた。
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