クリムゾン・プロトコル
紅未子と同じく背の高い彼は、少し身体を折るようにして耳元で話してくれる。走っていることをまったく感じさせない、安定した息づかいに、鍛えている人はすごいなあと私は感心した。

「じゃあ」と青くんが軽く片手をひらめかせて、ぐんとスピードを上げた。次々とクラスメイトたちを抜かし、見る間に私と半周以上の差がつく。途中、紅未子を追い抜かす際に、彼女の背中をぽんと叩いたのが見えた。一瞬だけ並んで、少しなにか喋ってから、また鮮やかに速度を増す。

紅未子とよく似た顔立ちなのに、男の子だからか、はたまた神様の気まぐれなのか、彼の外見は"整っている"という形容の範囲に収まる。

紅未子だけが特別なのだ。

それはもう、異質と呼べるくらいに。


* * *


翌朝、下駄箱の前で紅未子と一緒になった。


「おはよう」


声をかけたら、なぜか私のほうを見ずに「おはよう」と早口で返事をしてきた。

明らかになにかおかしいその態度に、私は紅未子の腕を引いてこちらを向かせた。顔色は少し悪い。でも怪我はしていない。


「…紅未子、ネクタイは?」


なぜ締めていないのか。

とたんに紅未子がおろおろと、視線をさまよわせて焦りだした。


「なくした」

「嘘つかないの」

「取られた」


取られたって…。


「誰に?」

「…知らない人」

「どんな人? 校内? 校外?」

「校内。先輩」

「男? 女?」

「女」
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