クリムゾン・プロトコル
「いっぱい」と断片的な情報をぽろぽろと口にする紅未子に、幼児か、と言いたくなった。怯えた瞳と目が合って、胸が痛くなる。


「なにされたの」

「先輩に近づくなって」

「誰よ、先輩って。紅未子、また誰かとつきあってるの」

「だって…」


紅未子が先を続ける前に、息せき切った足音がして、人影が昇降口に駆け込んできた。


「紅未子!」


怒声と共に、その勢いのまま詰め寄ってきたのは、青くんだ。


「待ってろって言っただろ!」

「でも、ひとりで平気だと思ったの」

「平気じゃないから、俺が一緒にいたんだろ…!」


駅から走ってきたんだろう、肩で息をしながら、苛立たしげに紅未子の両腕を掴む。

そうだよね、今日は青くんが一緒に登校すると言っていた。なのにどうしてひとりなのかと不思議だったのだ。


「で、勝手にひとりになったところを、まんまと先輩たちにつかまったわけ?」

「先輩たち?」


青くんが私を見て、続いて紅未子を見る。紅未子は完全に萎縮し、「アオ、ごめん」と聞こえるか聞こえないかの声で言った。




「待て、誰とつきあってるって」

「高田先輩っていう人」

「どこの部の人?」


尋ねた私に、紅未子は困り顔で首をひねった。答えをくれたのは青くんだ。


「三年の高田なら、陸上部だろ。髪の色、かなり抜いてる人だろ?」

「そう」
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