クリムゾン・プロトコル
わかってもらえたことが嬉しいらしく、今度はぱっと微笑む。

青くんと私はため息をついた。つきあっている相手の部活も知らないってなに。

昇降口から、この屋上前の踊り場まで紅未子を引っ張ってきた私たちは、詳しく話すまで出さない、と紅未子を脅した。

成績はいいくせに、物事を筋道立てて話すとなるとからっきしの紅未子の、要領を得ない説明をまとめると、こうだ。

運悪く自動改札機の不調に引っかかって足止めされた青くんを待たずに、愚かにもひとりで駅を出た紅未子は、学校の手前で数人の女の先輩に囲まれ、校舎横の部室棟裏に連れていかれた。そこで「高田くんと別れなきゃ、どんなことになるかわからないよ」と脅し文句をもらった。


「脅し文句だけで、ネクタイとられる?」

「ええと、少し押されたりとかしたかも」


突き飛ばされたって言うんじゃないの、それ。

他人の悪意に対して極端に鈍い紅未子に、もはや呆れる。

いや、鈍いんじゃない、たぶん無意識のうちに鈍くあろうとしているのだ。そうでなきゃ生きていけないから。


「いつからつきあってるの」

「今月の…はじめ頃」

「別れたら?」

「でも…」

「好きでもなんでもないんでしょ」


床に敷いた毛布の上に座りこんだ紅未子が、うかがうように青くんを見た。立てた片膝に腕を預けていた彼は、その視線を受け止めて、ゆっくりとうなずく。


「お前が言えないんなら、俺が言ってやる」


青くん、それはいくらなんでも過保護だ。

私の呆れ半分の視線に気づくと、さすがに彼も気まずそうな顔になり、けれど決然と言う。


「これ以上面倒に巻き込まれるよりいい」


まあ、確かにそうだ。

当の紅未子は、困惑した表情で私と青くんを交互に眺めていた。

紅未子は嫌と言えない。自分が言われることに恐怖があるからか、人にも言うことができない。だから告白されると百パーセントつきあうことになる。

紅未子ほどのレベルになると、告白してくる人は実はそう多くない。あまりにレベルが高すぎて、したくても腰が引けてしまうんだろう。けれどたとえば年上とか、物好きとか、怖いもの知らずとか、そういう男の人は一定数いて、たまに告白されては、紅未子は人形のようにイエスと答えてしまう。

そこを責めてももう仕方がない。紅未子はそういう子なのだ。
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