クリムゾン・プロトコル
「別れてくれるか、聞いてくる」


そう言って足取りも軽く電話をしに行った紅未子の背中を見送りながら、猛烈に不安になった。


「つきあうとか別れるとか、意味わかってるのかな…」

「一応、やることはやってるから、わかってなくもないとは思う」


その発言に驚いて、思わず勢いよく青くんのほうへ首を向けた。

別に紅未子がそういうことをしていたことに驚いたわけじゃない。彼の口からそんな内容が飛び出したことに驚いたのだ。


「見たことでもあるの」

「たまたま。あいつには言わないでおいてもらえるか」

「言わないよ、そんなこと」


請け負うと、青くんがすまなそうな顔になる。


「学校で?」

「うちの部室。相手がうちの、当時の三年だったから。もう卒業したけど」

「野球部の部室って…」


そんなメジャーな部室でそんなことするなんて、紅未子以前に、その先輩がアホすぎる。

青くんは不快そうに眉根を寄せた。


「あいつはたぶん、そういうのも断れないバカなんだ」

「青くん…」

「なにかあったら、どうするんだよ…」


苦々しく吐き捨ててうつむく。

うちの野球部は強くもなければ厳しくもないので、全員坊主なんてことはない。けれど青くんは、紅未子と似た柔らかそうな髪を、さっぱりと短く、運動部らしく清潔に整えている。

彼が、中学の頃はブロックで知らない人はいないくらいのエースピッチャーだったことを、誰かから聞いた。


「別れてくれるって」


そこへ浮き浮きと紅未子が戻ってきた。バリケードを軽やかにくぐり抜けて、長い手足を折りたたみ、にこにこして私たちの間に座る。
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