そのとき、君の隣で笑うのは
毎日紫海と帰るようになった。
もちろん、偶然を装って。

部活の時間が一緒に終わるといっても
体育部と文化部では片付けに差があるし、
燎の方が早いに決まっている。

まぁ、だから待ち伏せする事が出来るのだけれど。

「あー、腹へった」

燎が会話に困っていつも最初に言うセリフ。
他に気の利いた言葉はないのかと自問自答してしまうが、答えなど見つからず。


「あ、そういえば、お母さんに燎の話したら今度うちに食べに来いって」

「・・・へ?」

「久しぶりに会いたいって。遊びに来なくなったから寂しがってたよ」


予想外の答えが返ってきて、燎は間抜けな声を出してしまった。
家で燎の話をしているのか。
何を言われているのか気になってソワソワしてしまう。

「オレの話・・・すんの?」

平静を装ったつもりが、不自然に強ばった声になってしまった。

「まぁ、最近よく会う、というか毎日って言っていいほど一緒に帰ってるし。お母さんに見られて突っ込まれた」

それから懐かしいわぁなんて思い出話を散々した後、紫海ばっかりズルい!ってなったらしい。

「まぁ・・・そこまで言うなら、行ってやってもいいけど?」

紫海の家に行けるのが嬉しいのに、意地を張った返ししか出来なくて、カッコ悪い。

だけどそれを聞いて笑う紫海を見たら、そんな気持ちも吹き飛んだ。
自分の言葉に笑ってくれるだけで機嫌が良くなるなんて、なんて単純なんだろう。

(かわいいなぁ・・・)

あの頃より大人びて、益々女の子になった紫海の笑顔はとても可愛くて綺麗だった。

・・・こうしたのはあの男なのだろうか。

見えないライバルに嫉妬してしまう。

紫海との空いた時間を埋めたくて、必死に足掻いている自分はなんてカッコ悪いのだろう。

会えば冷めるかと思っていたこの気持ちは
拍車をかけるだけだった。
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