そのとき、君の隣で笑うのは
部活も終わり、帰宅する頃には辺りはすっかり日が落ちていた。
住宅街の街灯がその暗さを強調させる。
季節は春だといっても夜は肌寒い。
部活仲間と別れてひとりになった今は、早く室内に入りたいと歩調を早めた。
見馴れた家の門の扉に手をかけようとして、
鳴子と休み時間に交わしたあいつの話を思い出し、ふと向かいの家を見つめる。
“白岩”と書かれた表札は昔と変わらず、よく訪れていた家を見上げて懐かしさが蘇る。
あの玄関を開けると、紫海よりも低い目線の男の子がいつも飛び出すように出迎えて、
急かすように手を引かれ部屋へ連れて行かれる、そんな日常だった。
元気かなぁと思い出に浸っていると向かいの玄関の扉が開かれた。
「あれ?紫海ちゃん久しぶり」
そこに現れたのは、制服を着た男の子。
紫海の視線に気付いた彼は紫海の知らない身長の、知っている顔で。
「・・・あ、あぁ、かがり、久しぶり」
少し動揺してしまうほど大人びた顔立ちと馴染みのない低めの声をしていた。
変わらないストレートの黒髪がそれを強調しているようで思わず、
ドキッとしてしまった。
平常心を保とうとフル回転する脳は、
身体より大きめの真新しい制服を見て年下なんだとホッとする。
「燎くん・・・」
彼の後ろから聞こえた可愛らしい声に、ひとりではないのだと気づく。
「あぁ、ごめんごめん。遅くなっちゃうな」
燎と一緒に出てきた彼女は、“女の子”という言葉が似合うほどふわふわのパーマがよく合っていた。
制服を見て、ふたりが紫海と同じ学校なのだと気がつく。
「...じゃあ、オレ、こいつ送って行かないとだから」
聞いてもいないのに続けられた会話は少しぎこちなさを感じるもので。
燎の隣にいた彼女が紫海に会釈をする。
ふたりが歩く姿がとても良くしっくりきて“お似合い”とはこういう時に使うものなのかと感じてしまった。
彼女に向けるそっぽを向いて照れたあいつの横顔が
ふたりの関係を強調しているように見えて
モヤモヤした気持ちが広がっていく。
「なんだ、彼女、できてたんだ」
いつの間にか口に出していた独り言は、思っていたよりも低い声で、
驚いたと同時に現実へと引き戻される。
この時感じたなんとも言えぬ虚しさに、昔交わした約束が頭の中で反芻していた。