江戸女と未来からの訪問者
「歳はなんぼじゃ?」

「二十五歳です」

 若いのう。若いのう。

 喜ばしい若さじゃ。

 年下の男子は良いのう。良いのう。

 本に本に、心がときめくのう。

 実に喜ばしい限りじゃ。

「生まれはどこじゃ?」

「鹿児島県です」

「薩摩藩であるか。温暖な気候の国じゃのう」

「はい」

「参勤交代は、さぞかし大変であったであろう。ご苦労さんじゃった」

「いえいえ、その時代に、僕は生まれていませんので」

「そうであったな」

「はい」

「島津家の出であるか?」

「いえいえ、違います。苗字は、佐竹です」

「佐竹であるか」

「はい。貴女様は、かの有名な、江戸女様ですよね?」

 私のあだ名を知っておるとは。確か、初対面のはずだが。

「江戸女は、あだ名じゃ。本名は、花子であるぞ」

「花子様ですね」

「そうである。ところで、何をしに来たのであるか?」

「サインをいただきに参りました」

「ほう、サインとな」

「はい」

 そんなにかしこまらんでよい。

 気楽にせい。気楽にせい。

 余は機嫌が良いであるぞ。

 いくらでも書いてやるぞよ。

 書道は幼い頃からやっておる。

 かなりの腕前じゃぞ。
< 16 / 26 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop