江戸女と未来からの訪問者
「どうして私のことを知っておるのじゃ」

「江戸女様は……」

「江戸女と呼ぶでない! 花子と呼べ! 花子と!」

「申し訳ありませんでした」

 そんなに土下座せんでよい。

 美男子だから、許してやろうぞ。

「面をあげい」

「はい」

「先程の続きを話してくださらぬか」

「はい。花子様は、人間文化遺産として、二千百五十八年でも有名でございます。歴史の教科書にも載っております」
 
「そうであるか。それは実に喜ばしいことじゃ」

「はい。僕は、江戸女様の……」

「江戸女と呼ぶでない! 何度言えばわかるというのじゃ!」

「た、大変なご無礼を……つ、つ、つりかわにつかまりまして……」

 つり革に掴まってどうするのじゃ。ここは、鉄の箱の中ではないぞ。

 言葉遣いが間違っておる。つかまつりまして。であろう。

 声が震えておるではないか。体も震えておるではないか。

 私を怖がっておるのか。怯えておるのか。

 そんなに這いつくばらんでよい。

 無益な殺生はせぬ。

 我は辻斬りではない。

 美男子だから、許してやろうぞ。

「面をあげい」

「はい」

 そんなに背筋を正さんでよい。

 苦しゅうない。苦しゅうないぞ。
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