櫻
※流血表現あり
「起きたか、俺が誰だか分かるか?」
顔を見上げると壊れ掛けの提灯の灯に照らされ顔がぼんやり見える
「せんせ、え?」
そこにいたのは寺子屋時代に通っていた道場の先生、良く晴明と二人でどうにか1本取ろうと悪戦苦闘していたひと
年の頃は土方と変わらない程だ
言われてみればあの頃の面影はあって
だがしかし!私は同心
私情を挟むわけにはいかない、何とか聞き出さないと
「何故ですか、何故私を」
先生は私を一度睨むと昔のような優しい笑顔で「関係ないだろ?黙ってろよ」と一喝した
信頼していた恩師の豹変ぶりにただただ唖然とし、心情は複雑だ
先生が居なくなり腕の縄を解こうと懸命に動かすも縄解きの術など知ってる筈もなく無念
う、動けない。
土方さん、どうしてんだろ。
今頃あの別嬪さんと一緒に居るのかな
別嬪さんと逢引してるのかな
嫌だな、
「櫻さん、お友達が来たよ」
先生の声に顔を上げると其処には恋焦がれていた土方さん
ではなく、いつも優しく世話を焼いてくれる
「はじめさんっ!」
はじめさんの姿はズタズタで、沢山いたぶられた痕跡が見える
出血も酷く出血多量で今にも死んでしまいそうだ
「相崎、先生、はじめさんは開放してください」
先生と付けるのも虫唾が走った
ピクリと反応した先生は私に近付くと結い上げられた髪を思い切り掴み私の頭を浮かせた
痛みは差して問題ではない、仕事柄馴れている。拷問に耐える訓練も受けた。
此処で死んだとしても余り悔いはない
父上の為に死ねるのなら、国の為に命を投げ打てるのならそれも悪くはないかもしれない。
は?
「んんっ?!」
勢い良くアタマを引かれたと思えば急に重なった唇
それはあの頃の初恋だった相崎先生ではなくて卑怯な手を使う犯罪者
それなのに、こんなにも嬉しいのは私はもしかしてまだ
「お前を殺す訳には行かないからなあ」
そう言うと先生ははじめさんを蹴り上げる
「やめてください、先生!はじめさんをこれ以上傷つけないで、」
何度も何度も強く蹴り付ける
はじめさんはその度宙に腕を放るように動かない、まるで人形のようで怖くて涙が出た
「やめて!やめて!!はじめさんっ!」
何度言っても聞かない先生の横顔は今にも鬼が出てきそうで怒りしか湧かない
動かないはじめさんは辛そうに口から血が溢れて止まらない
「もうやめろ!やりたいなら私をやれ!!」
私の声が古ぼけた倉庫に響く、先生は誰かに指で指示し誰かが私を持ち上げる
ゆっくりも近付く先生がニッコリと笑うと頬に重い痛みと衝撃が走った
一発一発が重い、苦しい
こんなのを何発も何発も受けていたのか
口から血が垂れると先生はピタリと止めた
「傷物にすれば価値が減る、価値が優先だな」
そう言うと再び先生は、はじめさんの方へ向いた
その瞬間爆発音がなり響き扉の方を見ると今度こそ恋焦がれ待ち望む土方さんではなくて、幼い頃夫婦の契を交わした晴明がそこにいた。
私より弱っちくてちっちゃい弱い子だと思っていた、何故気が付かなかった
こんなに強いのに
「櫻!ごめん、もっと早く来てればこんなことに、」
晴明の声に
いつの間にか居なくなった先生の場所をぼーと眺める事しか出来なかった
いつの間にこんな差がついた、
晴明に護られるなんて
悔しい筈なのに来てくれたのが嬉しくて晴明に必死で抱き着いていた。
「櫻、?」
晴明の声で正気に戻った、「ごめん、」小さく放った一言がやけに乾いて聞こえた
急いではじめさんの元へ行く、慌てて自分の着物で出血部を押さえる
「はじめさん、ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい」
罪悪感が襲ってくる
私のせいだ、私のせい
はじめさんは悪くないのに、私が同心のくせに甘い考えで居たから
いつまでも頭の子供って気持ちでいたから
運ばれるはじめさんに声を掛けても反応しなくて怖くなって足が震えた
私も応急処置は施されたが気が気では無かった
はじめさんが意識不明の重体だと知った時からはじめさんの部屋の前から一歩も動けない。
「櫻、少し良いか。」
冷たく強ばった土方さんの顔
小さく返事をして後ろを着いていく
「何でしょう、土方さん」
堅く閉ざされた口はなかなか開かず、私を不安にさせるばかりだ
「悪かった」
頭を下げる土方さんに驚き
そして気付けば土方さんに抱き着いてごめんなさいごめんなさいと嘆いていた
「櫻、お前は悪くない。」
ぎゅうと抱き締められ堪えていた涙が溢れ出す
「はじめさんが死んじゃったらどうしよう、」
「あんなしぶとい奴がそう簡単に死ぬかよ」
「はじめさんに、嫌われたらどうしよう」
「彼奴は寧ろ好いてると思うぞ」
「土方さ、」
「何だ」
途切れ途切れに続けた会話の中で想いが溢れ出してくる
緊張の糸が途切れそこから何を口走ったか分からない。
でもきっと
「好き、です」
「ああ」
土方さんの暖かい腕が優しくて心に空いた穴が塞がった気がした。
唇が重なった気がした。
「起きたか、俺が誰だか分かるか?」
顔を見上げると壊れ掛けの提灯の灯に照らされ顔がぼんやり見える
「せんせ、え?」
そこにいたのは寺子屋時代に通っていた道場の先生、良く晴明と二人でどうにか1本取ろうと悪戦苦闘していたひと
年の頃は土方と変わらない程だ
言われてみればあの頃の面影はあって
だがしかし!私は同心
私情を挟むわけにはいかない、何とか聞き出さないと
「何故ですか、何故私を」
先生は私を一度睨むと昔のような優しい笑顔で「関係ないだろ?黙ってろよ」と一喝した
信頼していた恩師の豹変ぶりにただただ唖然とし、心情は複雑だ
先生が居なくなり腕の縄を解こうと懸命に動かすも縄解きの術など知ってる筈もなく無念
う、動けない。
土方さん、どうしてんだろ。
今頃あの別嬪さんと一緒に居るのかな
別嬪さんと逢引してるのかな
嫌だな、
「櫻さん、お友達が来たよ」
先生の声に顔を上げると其処には恋焦がれていた土方さん
ではなく、いつも優しく世話を焼いてくれる
「はじめさんっ!」
はじめさんの姿はズタズタで、沢山いたぶられた痕跡が見える
出血も酷く出血多量で今にも死んでしまいそうだ
「相崎、先生、はじめさんは開放してください」
先生と付けるのも虫唾が走った
ピクリと反応した先生は私に近付くと結い上げられた髪を思い切り掴み私の頭を浮かせた
痛みは差して問題ではない、仕事柄馴れている。拷問に耐える訓練も受けた。
此処で死んだとしても余り悔いはない
父上の為に死ねるのなら、国の為に命を投げ打てるのならそれも悪くはないかもしれない。
は?
「んんっ?!」
勢い良くアタマを引かれたと思えば急に重なった唇
それはあの頃の初恋だった相崎先生ではなくて卑怯な手を使う犯罪者
それなのに、こんなにも嬉しいのは私はもしかしてまだ
「お前を殺す訳には行かないからなあ」
そう言うと先生ははじめさんを蹴り上げる
「やめてください、先生!はじめさんをこれ以上傷つけないで、」
何度も何度も強く蹴り付ける
はじめさんはその度宙に腕を放るように動かない、まるで人形のようで怖くて涙が出た
「やめて!やめて!!はじめさんっ!」
何度言っても聞かない先生の横顔は今にも鬼が出てきそうで怒りしか湧かない
動かないはじめさんは辛そうに口から血が溢れて止まらない
「もうやめろ!やりたいなら私をやれ!!」
私の声が古ぼけた倉庫に響く、先生は誰かに指で指示し誰かが私を持ち上げる
ゆっくりも近付く先生がニッコリと笑うと頬に重い痛みと衝撃が走った
一発一発が重い、苦しい
こんなのを何発も何発も受けていたのか
口から血が垂れると先生はピタリと止めた
「傷物にすれば価値が減る、価値が優先だな」
そう言うと再び先生は、はじめさんの方へ向いた
その瞬間爆発音がなり響き扉の方を見ると今度こそ恋焦がれ待ち望む土方さんではなくて、幼い頃夫婦の契を交わした晴明がそこにいた。
私より弱っちくてちっちゃい弱い子だと思っていた、何故気が付かなかった
こんなに強いのに
「櫻!ごめん、もっと早く来てればこんなことに、」
晴明の声に
いつの間にか居なくなった先生の場所をぼーと眺める事しか出来なかった
いつの間にこんな差がついた、
晴明に護られるなんて
悔しい筈なのに来てくれたのが嬉しくて晴明に必死で抱き着いていた。
「櫻、?」
晴明の声で正気に戻った、「ごめん、」小さく放った一言がやけに乾いて聞こえた
急いではじめさんの元へ行く、慌てて自分の着物で出血部を押さえる
「はじめさん、ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい」
罪悪感が襲ってくる
私のせいだ、私のせい
はじめさんは悪くないのに、私が同心のくせに甘い考えで居たから
いつまでも頭の子供って気持ちでいたから
運ばれるはじめさんに声を掛けても反応しなくて怖くなって足が震えた
私も応急処置は施されたが気が気では無かった
はじめさんが意識不明の重体だと知った時からはじめさんの部屋の前から一歩も動けない。
「櫻、少し良いか。」
冷たく強ばった土方さんの顔
小さく返事をして後ろを着いていく
「何でしょう、土方さん」
堅く閉ざされた口はなかなか開かず、私を不安にさせるばかりだ
「悪かった」
頭を下げる土方さんに驚き
そして気付けば土方さんに抱き着いてごめんなさいごめんなさいと嘆いていた
「櫻、お前は悪くない。」
ぎゅうと抱き締められ堪えていた涙が溢れ出す
「はじめさんが死んじゃったらどうしよう、」
「あんなしぶとい奴がそう簡単に死ぬかよ」
「はじめさんに、嫌われたらどうしよう」
「彼奴は寧ろ好いてると思うぞ」
「土方さ、」
「何だ」
途切れ途切れに続けた会話の中で想いが溢れ出してくる
緊張の糸が途切れそこから何を口走ったか分からない。
でもきっと
「好き、です」
「ああ」
土方さんの暖かい腕が優しくて心に空いた穴が塞がった気がした。
唇が重なった気がした。