キミノテノヒラノウエ。
再会。
「チビスケ。仕事は決まったか?」

と低い笑いを含んだ声の主は高校の時の家庭教師だった宮下 薫(みやした かおる)。
薫ちゃんだ。

時折メールのやりとりはしてたけど、声を聴くのは2年ぶりかな。

「21歳を過ぎた乙女に『チビスケ』はどうかと思うけど、元気だった?薫ちゃん。」


「29になった前途有望な外科医に『薫ちゃん』もどうかと思うぞ。早坂 てまり(はやさか)。」

とくっと喉を鳴らして馬鹿にしたように笑う癖は直ってないな。

「仕事は?どこのなんてケーキやだ?」

「鎌倉の『gâteau kazama』(ガトー・カザマ)本店。江ノ電の鎌倉高校前から歩いて25分。」

「へえ、有名店じやん。パティシエの風間って、コンクールで優勝しただろ。」

「そうだよ。よく知ってるね。
風間さんは天才です。
すごく美味しいケーキ作るんだよー!!
コンクールで賞をとった『美咲』っていうケーキは奥様の名前と
美しく咲く桜ってふたつの意味があって、
花びらの形のムースで物凄く美味しくて、それでもって…」

「はいはい。わかったわかった。
就職祝いにメシ奢ってやるよ。
ケーキも食うか?」

「食う!!」と言うと、

「あとで、メールしとく。」と笑った声で言って突然電話が切れた。


相変わらず、勝手なヒトだ。

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